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TACHO 0号に託した想い

 「TACHO」は、なんとか趣味の定期本をと目指して、大先輩である故齋藤忠直さんを担いで形にしたもの。1991年秋、ソニー・マガジンズ刊というから、バブルがクルマ世界にまで及ぶ前夜といったところだろうか。その巻頭で展開したのが「趣味のクルマを語る」という20余頁に及ぶ特集。なるべくたくさんのクルマについて語ろうとした。そこには、それぞれのブランド、お国柄の共通認識、趣味のクルマのコモンセンスというようなものが詰まっている。後続のニュウモデルは加わってきているが、味覚の基本はいまも変わることはない。


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 「わぁーっF40 だっ !!

 子供、一般を問わず、フェラーリF40の人気は凄い。行く先々で、たちまちのうちに人垣をつくってしまう。

 それをみて、マスコミは「大人気!!」などとはやしたてる。最高のクルマであるかのように吹聴する。

 だが、かつての「スーパーカー・ブーム」の時もそうだったように、趣味人は決してそれに全面的賛同を示すことはない。もちろん、かのアイテムが素晴らしい存在であることは認めるのだが、それが絶対ではない、という思いがある。

 人気のあるものに対するやっかみなどではない。趣味人は、それぞれ自分の趣味観、審美眼に基づいて、独自の価値判断を下すからで、それがマスコミの主張と一致することが少ない、ということだけである。

 なにせ、趣味人は趣味に生きる。趣味のよい思考、趣味の良い感性、そして趣味のよいものたちに囲まれたライフスタイルは、世間の浅はかな価値基準とは別の、奥深いところからの歓びがあるというものだ。

 趣味というものは、基本的にはパーソナルなもののようだ。

 とはいうものの、趣味を同じくする同好の士というものも存在する。趣味人同士の語らいは、興味深い共感を呼んだりもする。

 さて、クルマが好き、クルマ好きを自ら認じてから20年というキャリアの仲間がある。今や社会的にも働きざかりというクルマ好き。日頃は忙しい忙しいといいながらも、暇を盗み出すようにしては、クルマを走らせ、クルマをいじり、イヴェントがあるといっては駆けつける。

 自然とそうした仲間が集まり、お互いに啓発しあい、気のあった同士がクラブをつくった。忙しい者ばかり、特に肩苦しい規則も例会も持たず、メンバーさえも固定しないで、気軽に趣味を共有するだけにしよう、という。

 それぞれが趣味のエネルギイだけは燃やしつづけよう、お互いに刺激となるよう頑張ろう、話についていけるよう情報だけは欠かさず仕入れておくこと……いくつかの訓は、もう趣味人には、趣味を保っていく秘訣としてすっかり身についていることかもしれない。

 集まっては、情報を交換しあい、刺激しあい、そして趣味を語り合う。今さら改めて趣味のクルマを語るっていうのも面白いかもしれない。じゃ、集まれるだけ声をかけてみますか……ということになって、話ははじめられた。

 それぞれの趣味と個性を持つ3人のメンバーに加え、英国車、イタリア車、ドイツ車、フランス車に強い友人知人をゲストに招いての、趣味のクルマの話は、とどまることを知らなかった。予定の時間を大幅に超過、えんえん深夜にまで及んだのであった。



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■「趣味のクルマ」の原点は英国車

突出してはいないけれど、ホンモノの味わいを携えている。


○このところ英国車ファンが少し鳴りを潜めている気がするけれども、なにはともあれ、クルマ趣味の原点というと、英国車からだよね。多くのクルマ好き世代は英国車から、趣味のスタートを切っている。

 趣味人って、自分の趣味のはじまりの相手って結構忘れない。

○かつてはMGとトライアンフとが、人気を二分していた。スプリジェットで入門した人が少なくないのと同じで、スピットファイアでオープンエアを知った人も少なくなかった。そしてスピットファイアの人はTRに、スプリジェットの人はMGAとかMGBに上級移行して……

○そうやって段階を踏んでいった方が趣味を長く楽しめる

○趣味って、やっぱりマイナーなところが面白いんじゃない? 英国スポーツカーのメジャーがMGやトラだとすると、メジャー風マイナーがロータス。だから趣味の極致なんだ。

○ロータスはマイナーながら名門の響きがあるよな。でもマイナーから抜け出ることなしに終わった、実に趣味のためだけのようなクルマ、英国には多いんだよね。

○なにしろ、つくる方からして趣味人、それも商売のことなどからっきし興味のないようなアマチュアが、堂々と本気でメーカーになっちゃうんだから。ジネッタ、エルヴァ、マーコス、TVR、ケイターハム……

○マイナーであっても気位い高い、英国人はやはり趣味に生きている。アストン・マーティン、デイムラー、ベントレイ……ジャガーも。

○そういう別世界は別にしても、たとえばヒルマン・インプだとかフォードのアングリア、エスコート。それだけで英国。いや、持っていなくてもそれを知っているだけで。ミニのカントリイマンとかヴァンデン・プラス・プリンセスにしても、英国式ライフスタイルそのもの。

 英国車はやはり趣味の原点。



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■速い、愉しい、美しい、イタリア車は

感性でいったら「趣味のクルマ」のひとつの頂点。


○英国車が趣味の原点だとすれば、イタリア車は趣味の頂点。とにかく速い、愉しい、美しい、三拍子そろっている。趣味でしか使いようのないクルマがあるくらい(笑)

○その分、壊れる、メインテナンスのことなど考えていない、高い……(笑)

○美点と欠点はウラオモテ。オモテを見ている限り本当に趣味の究極。イタリアにもバックヤード・ビルダー的存在が多く、未知の愉しみも多く残されている。

○その筆頭であり、ABC順でも「いの一番」にあるのがアバルト。それにしてもカロッツェリアいろいろで宝石的な価格のものが少なくない。健全な趣味の対照になり得ないような気もする。次にいこう! といっても「A」の項には大物、アルファ・ロメオが控えている。

○アルファ・ロメオはスパイダーにベルリネッタにベルリーナに、それぞれにスターが目白押し。それに、時代的にも最近まで、いや現代のモデルにも注目モデルがそろっている。アシはクーラーつけたジゥリア・スーパーで、趣味のジゥリエッタ・スパイダーかなにかを持っていて、夢は絶対「SZ」とか、姿が浮かんでくる。

○全体的に典型というようなアルファ・ロメオに対して、ランチアは芸術性に富んでいる。特にザガート・ボディのランチアなどは個性と個性の二重丸って感じで、それ1台で3年は飽きずに暮らせる。

○イタリアで忘れられないのがスーパーカーの一群。夢とかじゃなく、それを超える魔力があるんだよな。イタリアでしか生まれ得ない類のクルマだ。

○マイナーなデ・トマソのヴェレルンガとかASAとかオスカ1600GTとか、たとえば雑誌かなにかでで小ちゃな写真見ただけでひと目惚れ。X1/9とか124スパイダー、850クーペやスパイダーそれに500など大フィアットはそのままイタリアン。イタリア趣味はやめられなくなる。


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■ドイツものに宿る確かな存在感

機械としての魅力がそこここに光るドイツ車。


○よくも悪くもドイツ的なクルマが世界各国でつくられるようになってきて、趣味人たちのドイツ車に対する思いに熱さが感じられない。でもだからといってドイツ車に味覚がないわけではない。

○特に1970年以前はドイツ車というより、旧き佳き欧州車という括りのなかに入ってくる。ビートル、特にカルマン・ギアやタイプ2はひとつの世界をつくっている。ドイツ車はダメだけれど、ポルシェ356は別、っていうひとも結構いる。ドイツ車とかの枠を超えた「古典」。

○ポルシェびいきってポルシェだけで何台も持っている人が多い。ポルシェ911はもうなにもいうことはないような存在だけれど、ポルシェ914とかポルシェ912なんてマイナーで興味深かったり。

○現代のそれとは別世界にあるのがBMWでは「02」シリーズとかメルセデスでは「パゴダ・ルーフ」のメルセデス230SL~のシリーズなど、趣味の対象として……

○ダメだなあ、メルセデスとかBMWとかって講釈を聴き入ってしまう、ちょっと外れた趣味人的主張が通用しない。



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■「趣味のクルマ」はなにもスポーツカーだけではない。

フランス車にはフレンチそのもののエスプリが漂う。


○フランス人は合理的で、本質ケチだから遊び本位のスポーツカーなどつくらない。だからフランスには趣味の対象となるような面白いクルマは少ない、というのが定説だった。でも、スポーツカーだけが面白いわけではない。フランス車全体が独自の発想体系で形づくられていて、味わいがある。

○なかでアルピーヌは異色の存在といっていいほどのスポーツカー。

○よりパワーの高い、なんでも最高を欲しがる傾向があるけれど、本当のヒストリックカー・レースを楽しみたいのか、それともリアル・スポーツカーとの生活を愉しみたいのかは、はっきりさせておく必要がある。アルピーヌには性能重視の人とスタイリング重視の人とふた通りある。

○それはアルピーヌA110についてであって、A310以降はA110と較べるからいけない。A310以降もそれ自体はフランス的スタイリングと精神を持ったなかなかのアイテム。

○アルピーヌのほかにもシムカ、マトラなど独自の境地のスポーツカーがある。でもフランスらしさといったらピカイチはシトロエンに尽きる。1台選べといわれたらシトロエン2CV

○いや、シトロエンにはシトロエンDSを筆頭にGSCX…… シトロエンはとてもデリカシイに溢れた実用車。あのソフトな立ち居振る舞いが生活で身に付いたら、本当に似合う。